投稿者 : 涼子 堀、投稿日 2014 年 11月21日

中世の趣を残すフランスのブルゴーニュでぜいたくな時間を過ごす旅

パリの喧噪から離れ、TGV列車(フランス国鉄運行の高速鉄道)でたった1時間。そこにはまるで絵本や本の挿絵からそのまま出てきたような中世の面影を残す町、スミュール・アン・ノーソワがあります。700年以上も前から存在する石造りの民家が現在も立ち並び、町の中心にはさまざまな歴史を見守ってきたかのような立派な教会がそびえ立っています。ビュッシー・ラビュタン城や世界遺産に登録されているフォントネー修道院もこの近くです。この町に住むフランス人女性マリーズのお宅では、ブルゴーニュ地方の美食と文化にふれる週末2泊3日の旅プランが開催されています。レポートを交えながら、マリーズにみるフランスの豊かな時間の過ごし方をご紹介します。

フランス式、人生の愉しみ方とは?

「Joie de vivre(人生の愉しみ)」——フランス人の人生哲学を表しているこの言葉。生きる上での原始的行為である「衣食住」において、各々が独自のこだわりを持ちながら、人生を限りなく謳歌している国民といえば、間違いなくフランス人でしょう。

そんな典型的なフランス人であるマリーズが、パリからこのブルゴーニュの小町に引っ越してきたのは10年ほど前。かのルーブル美術館から目と鼻の先にあり、パリの中心に位置する誰もがうらやむすてきなアパルトマンに住んでいた彼女は、なぜこの小町を選んだのでしょうか。そんな疑問を抱きつつ、超特急列車TGVに飛び乗り、パリから約1時間でスミュール・アン・ノーソワに到着しました。

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元修道院を改装したマリーズ宅 photo by Maryse, La petite classe

 

歴史に思いをはせながら

まるでタイムスリップしたかのような町、スミュール・アン・ノーソワ。12〜15世紀頃、日本でいえば、鎌倉時代の頃から現存する建物がこの町にはたくさん残っています。マリーズの自宅も例外ではなく、15世紀に建てられた修道院を改装したお宅。

当時、修道院は男性棟と女性棟にわかれていて、マリーズ宅は男性棟側。川を渡ったその先には女性棟があったそうですが、マリーズ宅の地下倉庫にはなんと穴が掘られていて、その穴は向こう岸の女性棟までつながっているのです! 密会や夜ばいが行われていたのですね。さすがアムール(愛)の国フランス!? と思いきや、外からの攻撃などがあった際の逃げ道としてもこのような隠しトンネルは使われていたようで、お城や宗教的建物内にはごく当たり前に存在していたようです。そんな歴史的事実もマリーズの自宅から垣間みることができます。また、その時代に建てられた石造りの建物は家と外の壁が驚くほど厚く、冬でも寒くないように工夫されています。まさに歴史的博物館に滞在するかような貴重な体験です。

現存するアーチも当時のまま photo by Maryse, La petite classe
現存するアーチも当時のまま photo by Maryse, La petite classe

ブルゴーニュ地方の美食

金曜日の夜に到着後、アペリティフ(食前酒)から始まり、おしゃべりをしながらゆっくりと夕食を頂きます。日本料理にも哲学があるように、料理とワインの組み合わせやコースの順番、食後酒の定義など、フランス料理にも立派な哲学があります。消化を助けるためであったり、見た目にも美味しくするためであったりなど、全て理にかなっているフランスの食文化を、マリーズは丁寧に教えてくれました。

夏の天気の良い日は心地よい庭で食事です photo by Maryse, La petite classe
夏の天気の良い日は心地よい庭で食事です photo by Maryse, La petite classe

季節によって変わるメニューですが、この日のメインは有名なブルゴーニュ料理であるブルギニョン。ブルギニョンという名前は、ブルゴーニュ地方の名産品である牛肉と赤ワインというフランス語を掛け合わせたものです。赤ワインでじっくり煮込んだ牛肉は、口の中でとろけるかのよう。締めにはチーズとデザートは欠かせません。地元人のお宅で頂く、レストランでは体験できないような本物のブルゴーニュ郷土料理のフルコースです。宿泊中は、このように日曜日の夕方まで、朝昼夜それぞれ2回ずつ、計6回の美食の楽しみは続きます。

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人生の豊かさを知る

小鳥のさえずりで朝は目覚め、天気が良ければお庭で朝食を。家庭栽培された果物を使用し作られた、マリーズいわく「簡単な」手作りジャムがテーブルに並びます。太陽の恵みが凝縮されたような美味なトマトジャムを始め、さまざまな果実のコンフィチュールはもちろんのこと、桜の葉っぱを漬けた特製リキュール類なども手作りし、自然な冷蔵庫である地下倉庫に保存されています。ちなみに彼女は、クリスマスの時期になるとフォアグラも手作りするほどの腕の持ち主。「それもすごく簡単なのよ」と言いながら。午後はビュッシー・ラビュタン城やフォントネー修道院、地元の市場などへ散策です。

そんなマリーズの本職は、外国人を自宅に受け入れ、宿泊付きのフランス語集中講座を提供する仏語のベテラン教師です。過去にはフィンランドや、東京・神楽坂の下町に住んでいた経験もあり、帰国後はアヌシー、パリと居を移し、今はこのスミュール・アン・ノーソワで過ごす日々が愛おしいといいます。ショッピングがしたくなったり、演劇や映画を観たくなったら、1時間足らずでパリに行けるしね、と微笑むマリーズ。自然に囲まれ移りゆく四季を肌で感じ、歴史に思いをはせながら、心身が喜ぶ美味しいものを頂き、自分のために過ごす時間。シンプルでありながらも、根本的な本来のぜいたくとは、を改めて考えさせられた旅となりました。

参考: マリーズのホームページ(日本語)|La petite classe