メキシコ版六本木ヒルズ?世界的大富豪がメキシコシティで展開中の都市開発プロジェクト
2014年は惜しくも米マイクロソフト社の共同創業者ビル・ゲイツ氏に奪回されたものの、2013年まで4年連続で米誌フォーブスの世界長者番付第一位を誇った、レバノン系メキシコ人実業家カルロス・スリム・ヘル氏。日本のNTTに相当する電話会社テルメックスや携帯電話業界最大手テルセルに加え、インブルサ銀行や老舗のサンボンズ・デパート、同名のファミリーレストラン等を全国規模で幅広く展開しています。近年は、メキシコシティのヌエボ・ポランコと呼ばれる都心一角の総合開発に情熱を注いでおり、10年前と比べると、同地域の地価は10倍に高騰。観光地としても魅力度を増しています。
スリム家の所有企業が集結する高級複合施設プラサ・カルソ
古くから工業地帯として知られ、日本でも認知度の高いコロナビールの製造元であるグルーポ・モデロ社のビール工場が隣接する一帯に建てられたプラサ・カルソは、ばく大な資金力と最先端テクノロジーを駆使して、省エネや節水にも配慮した野心的な総合開発プロジェクト。生活に必要な要素を一カ所に集約すべく、ショッピングセンター、オフィスビル、高層マンション、映画館、美術館、さらには大型シアターや水族館まで網羅しています。
同プロジェクトの建設が始まったのは2008年。その勢いに便乗するかたちで、近くに高級マンションや商業施設が続々と建てられるようになり、周辺はすっかり様変わりしました。ポランコと呼ばれる高級住宅・商業エリア(ハイアットやマリオットなどが建ち並ぶホテルゾーンにある)に近いことから「ヌエボ・ポランコ」(新ポランコ)と称され、一帯は日々進化し続けています。
亡き愛妻の名前を冠したソウマヤ美術館は入場無料!
カルロス・スリム財団が所有する膨大な絵画・美術品を一般市民に公開する目的で、1994年、メキシコシティ南部サン・アンヘル地区のショッピングモール「プラサ・ロレト」(スリム家のグループ会社)内にソウマヤ美術館が誕生しました。そして2011年春、「プラサ・カルソ」プロジェクトの一環として、数倍の規模を誇る同名美術館が新設され、6万6千点以上の美術品を同じく太っ腹の無料公開! そのざん新な建築デザインとともに人気スポットとして注目を集めています。
建築デザインを担当したのは、母親と同じ名前を持つスリム氏の愛娘ソウマヤさんの夫フェルナンド・ロメロ氏。2018 年に第一期工事完成予定のメキシコシティ新国際空港の設計デザイン(アップル本社新社屋を手がけたイギリス人建築家ノーマン・フォスター氏との共同プロジェクト)を任されたメキシコ建築界のホープです。
「近代彫刻の父」ロダンと奇想天外なダリの彫刻作品が共存する最上階の間
各階がらせん状の幅広い通路で結合されている6階建て(日本でいう7階建て)の同美術館は、フランス人彫刻家オーギュスト・ロダンの作品が充実。1階ロビーで、有名な「考える人」が出迎えてくれるほか、「ロダンの時代」と名付けられた最上階スペースには、ロダンの作品を中心に様々な彫刻家の作品を展示。スペイン人作家サルバドール・ダリの作品も数点あり、そのシュールかつユーモラスな作風で異彩を放っています。エレベーターもありますが、最上階から鑑賞をスタートし、らせんに沿って歩きながら下がっていくのがオススメです。
ルノワールやモネと一緒にメキシコ人画家たちの作品も鑑賞可能
海外を訪ねてその国の素晴らしい芸術に直に触れる、という贅沢な機会が一生得られないであろうメキシコの一般市民に、世界の一流芸術を鑑賞してもらいたい、というスリム氏の思いから生まれたソウマヤ美術館。そのため、西欧やアジア(主に中国・日本の象牙コレクションや屏風など)の作品も数多くあります。ディエゴ・リベラ、ダビッド・アルファロ・シケイロス、ルフィーノ・タマヨらメキシコの巨匠たちの作品も一部展示されており、メキシコの歴史や芸術にも触れられる構成となっています。
メキシコ国民が愛する「褐色の聖母グアダルーペ」など宗教画も充実
メキシコはカトリック大国だけに、ソウマヤ美術館の宗教画コレクションは見応え十分。独特の荘厳さを醸し出す額縁の素晴らしさも見逃せません。メキシコの守護聖母として老若男女に愛されている聖母グアダルーペの肖像画をはじめ、年代物の大作がずらり。ほかにもメキシコ歴代のお札や硬貨、懐中時計などが多数展示され、同じフロアに設置されたブルガリ特製のソウマヤ美術館の銀製ミニチュアは、ゴージャスな輝きを誇っています。
メキシコシティ初の大型水族館がオープン!
2014年6月、ソウマヤ美術館の向かいにオープンしたラテンアメリカ最大規模のインブルサ水族館。クラゲ、サメ、ワニを含む230種、総数約5000匹の海の生き物を鑑賞できます。海賊船やトロピカルビーチなど、各階ごとにメキシコならではの楽しい趣向が凝らしてあります。
ほかにも、現代アート中心のフメックス美術館(大手飲料水メーカーJUMEX所蔵コレクション)や、ブロードウェイ人気ミュージカルの上演を念頭に建てられた最先端のテルセル劇場(1400席)も隣接しているので、ショッピング、ランチ 、アート&演劇鑑賞……と移動時間を気にしないで充実した1日が過ごせます。メキシコといえば、世界遺産に指定されている数々の遺跡やビーチリゾートが有名ですが、ラテンアメリカを代表する近代都市メキシコシティの「最先端」もぜひ体感してみてください。
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文:森脇 音可
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