阿寒湖でアイヌ文化にどっぷり浸かる北海道旅に行ってみた
アイヌ文化を題材にした作品が人気を博すなど、いまアイヌ文化が注目されている。しかし、話題になっていることを知ってはいても、実はアイヌ文化についてあまりよく分かっていないことに気づいた。
確かに、アニメや漫画の中でアイヌのキャラクターが出てくることはあっても、普段の日常生活の中でアイヌ文化に触れることは、北海道に住んでいない限りはあまりないのかもしれない。しかしそう考えると、「アイヌ文化」について知ることは、いままで知らなかった北海道の魅力を知ることにも繋がるのではないかと思った。
北海道・阿寒湖に「阿寒湖アイヌコタン」という36戸・約120人が暮らすアイヌのコタン(集落)を見つけた。アイヌ文化を知るために、一泊二日でアイヌコタンへ行ってきた。
いざ阿寒湖へ
羽田空港から飛行機で約1時間40分、釧路空港に到着。
台風が近づいていたため天気が心配だったが、幸い雨は降らなかった。
高校の修学旅行以来の北海道に内心わくわくしながらも、元来内向的な私は、空港のいたるところに現れる「くしろよろしく」という回文に少し馴れ馴れしいなと思いつつ外へ出る。
阿寒湖へはここからさらに1時間ほどバスに乗る必要がある。
なるほど北海道は広い。
ちなみにチケットを買い、バスに乗り込むときに行先を聞かれる。「阿寒湖温泉」行きのチケットを買ったのだから「阿寒湖温泉」一択なのでは?? と困惑したが、実はその付近にもたくさんの停留所があるとのこと(webで調べたときはざっくり「阿寒湖温泉」としか表記されていないが、主要駅のみ表示しているそう)。運転手に「アイヌコタンに行きたい」と伝えると、「あかん遊久の里鶴雅」で降りると近いと教えてくれた。
阿寒バス
TEL:0154-37-2221
ホームページ:http://www.akanbus.co.jp/localbu/
阿寒湖アイヌコタンに到着
「あかん遊久の里鶴雅」でバスを降り、そこから徒歩2分。アイヌコタンに着いた。
入り口のゲートでは、アイヌの守り神であるフクロウが大きな羽を広げて出迎えてくれた。写真ではあまり伝わらないかもしれないが、思ったよりフクロウがでかい。ほんとうにでかい。
しょっぱなから少し圧倒されてしまったが、ここからゆっくりとコタン内を回ってみる。
「ポンチセ」とはアイヌの言葉で「小さい家」という意味。
4〜5名の家族が生活することができるアイヌ民家を再現した「アイヌ生活館」。アイヌの衣服や生活用具などが展示されている。入館料が「金額は、お客様にお任せいたします!」と書いてあり、面白そうだなと思ったのだが改装予定につき閉館中だった。
残念ではあったが、館内の展示物は同じくコタン内にある「アイヌ文化伝承館」に移っている。アイヌの生活様式についてはそちらで勉強しようと思う。
コタン内に立つポールには、よく見るとクマやシカ、シャチなどさまざまな動物が彫られている。
コタンの一番奥にあるのはアイヌ文化専用劇場の「阿寒湖アイヌシアター イコロ」(ロは小文字で表記する)。ここでは、ユネスコ世界無形文化遺産に登録されている「アイヌ古式舞踊」をはじめ、「イオマンテの火まつり」など、アイヌの伝統芸能を鑑賞することができる。
この日の最後の回(21時~)の「イオマンテの火まつり」のチケットを購入し、ゲートまで戻る。
ゲート正面の道からその両端にはアイヌの民芸品店や飲食店がひしめき合う。
どのお店も存在感があり、独特の世界観が生まれている。
アイヌの民芸品に触れる
どこに入ろうか迷っていたが、「民族衣装の貸し出し」という文字に惹かれ「オイナ民芸店」へ。
中に入ると一面に広がる木彫りの世界。
一見何か分からないがこれは手鏡。アイヌでは衣装や道具などに文様が施されているが、装飾としての意味合いだけでなく、魔除けの意味も込められているらしい。この文様すら手作業で掘っているというのだからその繊細さに言葉が出ない。
絶妙にゆるいポップが目を引いたのは、女性用の小刀(マキリ)である「メノコマキリ」。
アイヌの男性は、好きな女性ができるとマキリをつくり、プレゼントをする。女性はそのマキリの出来栄えによって男性の生活能力を計るのだそうだ。根っからの不器用の私はアイヌでは絶対にモテないなと思った。アイヌの男性は器用だな。
ちなみに、北海道を舞台にアイヌ文化を描く漫画「ゴールデンカムイ」の影響で、自分用のプレゼントとして買っていく女性客が多いそうだ。
こっちは男性用のマキリ。女性用と比べて迫力がある。
なまら小さいの。「なまら」とは北海道の方言で、「とても・非常に」という意味だが、このフクロウはほんとうになまら小さく、目を凝らさないとフクロウの表情は分からない。お店の人に聞いたところ、1羽ずつ表情が違うらしい。なるほど、やはり私はアイヌなら絶対にモテないなと確信する。こんな細かい作業できない。
この日は職人さんが作業することはなかったが、運が良ければ職人さんが店頭で木彫りをしている姿を観ることもできるそうだ。
さて、楽しみにしていたアイヌの民族衣装を着る。着付けはお店の人が手伝ってくれるので安心。
文様が入った着物のような衣装の上からベストを羽織り、木を編んで作られた被り物を頭に乗せ、小刀を首から下げると、
こうなる。
正直、ちょっとしたコスプレ程度で、文様が入った羽織りものだけかと思っていたのだが、ちゃんとした衣装だった。いわゆるコスプレは苦手なのだけど、ここまで本格的だと恥ずかしいという感覚よりも誇らしい気持ちが勝つ。アイヌは儀式や祭事のときにこのような衣装を身に纏うのだと教えてもらった。
民芸品店をそのほかいくつか周っている間に、同行していたカメラマンがアイヌの民族楽器である「ムックリ」を購入した。少し借りていじってみる。ムックリには、演奏が簡単なものとむずかしいものの2種類あり、こちらはその簡単なほう。
素材が竹なのでよくしなる。左手でムックリの左端を掴み、右手で右端を前に弾くことでムックリが振動し音が鳴るという仕組みだ。演奏するときは、左端を左手で持ち、そのまま左のほほにくっつけ固定し、振動が起こる可動部分を口の前に構え、右手で端をはじく。
「みょーん」「びよーん」と見た目からは予想できないような不思議な音が鳴る。感覚をつかむまでは難しいが、何度か練習して音が安定してくると楽しい。お店の人が丁寧に演奏方法を教えてくれるので、初めての人でも音が出せるくらいにはすぐになれるはず。
アイヌ文化を学ぶ
次は、アイヌ民族にまつわるものが集まる「アイヌ文化伝承館」へ。
ここでは、自然とともに暮らしてきたアイヌの生活や文化、民具について知ることができる。
館内には木彫り作家の作品なども展示されていた。
先ほどのムックリを発見。ここに展示されているものは、演奏が難しいほうなので形が違う。
出口近くには飲食店情報が載っていた。思わず目に留まった「喫茶ポロンノ」、今夜はここに食べに行こう。
時間は18時半。アイヌコタンの外にも民族品店が点在し、夜になるととても暖かい雰囲気のライトアップがされる。
アイヌ料理を堪能する
アイヌコタンに戻るとお店はすでにオープンしていた。
店先にあるメニューを見ると聞きなれない名前の料理が並んでいる。わくわくしながら店内に入る。
北海道なので、ここはやはりサッポロクラシック。
ビールを飲みながらゆるりと料理がくるのを待つ。
お店の中は一人で回しているようで、次々と来るお客さんに対して、大変そうだなと思った。ほんとうは料理についてあれこれ質問しようかと思っていたが、やめておく。純粋にアイヌ料理を漫喫したい。
最初に登場したのは同行者が注文した「ユック丼」。鹿肉だ。
シカのお肉なんて初めて食べるので、独特の臭みとかあるのかなと思っていたけれど予想外に食べやすくご飯が進みそうだ。
自分で注文したのは「チェプ(鮭)セット」。
手前のお椀に入っているのが「オハウ」。季節の山菜やきのこが入っている汁物で、少し塩気が強いかもしれない。外が寒かったのもあり、温かい食べ物に救われる。夏気分で東京から短パンで来てしまったカメラマンが羨ましそうな目で見ている。
ご飯は「アマム」と言う、豆・いなきび・キトピロを一緒に炊きこんだもの。豆以外のものが何なのかよく分からなかったのだけれど、おいしい。そして、鮭の血合いの塩辛である「メフン」と一緒に食べるとさらにおいしく、箸が止まらなかった。
次に食べたのは「ユク ルイペ 蝦夷鹿刺」。
ルイペとは凍ったお刺身のこと。端に添えてあるのは山わさびと言うらしい。山わさびとは初対面だったのだけど、本わさびよりツンとした刺激が少なく上品な味に感じた。
食べてみて一番意外だったのが最後に食べた「ボッチェピザ」。
生地にボッチェイモという芋を使用しているポロンノ独自のピザなのだそう。なんとも独特な触感。これは実際に食べてみてほしい。
締めにはマリモスカッシュもいただく。最後に残るマリモをどうすればいいのか最後まで悩んだ。
民芸喫茶ポロンノ
TEL:0154-67-2159
営業時間:
5月~10月 pm12:00~pm10:00 ※pm3:00~pm6:00は仕込みのため準備中になることもあり
11月~4月 pm12:30~pm9:00 ※冬季は予約必須
ホームページ:http://www.poronno.com/
火の神に願いを送る「千本タイマツ」
お店を出るとタイミングよく「千本タイマツ」の行進がやってきた。
誰でも参加できるこのお祭りは、アイヌの酋長を先頭に隊列を組み、阿寒湖温泉街からアイヌコタンまでタイマツを持ち行進するというもの。実は民芸品店のお店の人からは『絶対に参加した方がいいよ』と言われていたのだが、今回はスケジュールの都合上参加はできなかった。
みんなが持ってきたタイマツが中央の台を囲むように置かれ、最後に酋長が火をつける。
ひときわ大きく燃え上がる炎を見守る人々。「アペフチカムイ」(火の神)は、人間の願いを他の神々に伝えてくれるとして崇められている重要な神なのだそうだ。
その後、「護り札」に自分の願いを書き入れ、護り札入れに入れる。
タイマツ行進に参加していない人でも願いを書いていいということだったので、こちらはこっそり参加した。次に訪れる機会があったら、ぜひともタイマツ行進から参加してみたい。
千本タイマツ マリモの護り火
日程:2018年開催日 9月1日(土)~10月9日(火) ※悪天候の場合は中止
会場:北海道釧路市阿寒町阿寒湖温泉4丁目7−19 セレモニー会場アイヌコタン
TEL:0154-67-3200(NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構)
公式サイト:http://ja.kushiro-lakeakan.com/
最後は「イオマンテの火まつり」
そしていよいよラストの催し「イオマンテの火まつり」へと向かう。
同じように「イコロ」に向かう人が大勢いたので、みんな私たちと同じように「千本タイマツからのイオマンテの火まつり」コースで組んでいたのだろうと思う。現地に来て「千本タイマツ」の話を聞いたとき、「閃いた。これは火つながりで連続して見た方が楽しめそう」と思った自分のこと天才だと思っていたのに。
「イオマンテの火まつり」は、フクロウの神のナレーションから始まる。
アイヌは、自然や動植物など、自分たちに恵みを与えてくれるすべてのもの、そして自分たちではコントロールすることができない災害なども含め、あらゆるものにカムイ(神)が宿ると考え、日々の恵みを神に感謝し生活をしてきた。服や道具などの人工物にもカムイが宿っており、それらはカムイモシリ(神の世界)からアイヌモシリ(人間世界)に、アイヌの役に立つために送られてきたと考えられている。そのため、役目を終えたあとに祈りや感謝を欠くことはできない。同様に、動物のカムイもアイヌモシリには「動物の皮と肉」を持って遊びにきているのだと言う。
「イオマンテ」とは、ヒグマの姿を借りてアイヌモシリを訪れたカムイをカムイモシリへと送る儀式のこと。歌や舞いによって神々に感謝や祈りを捧げる。それらを再現したイベントが「イオマンテの火まつり」だ。
背景を知った上で見ていると、カムイという自分では想像がつかないくらい大きな存在を感じる気がしてくる。
さまざまな舞いが披露されるなか、ムックリ奏者4人による演奏には驚いた。「びよーんびよーん」という少し間抜けな音が鳴るぼのぼのした楽器だと思い込んでいたが、プロが演奏するとまさに神前の儀式にふさわしい神々しい音を奏でる。
「イオマンテの火まつり」の最後は、観客も一緒に参加して踊る。ざっと150人くらいいた会場の中から、希望者が前に出る。簡単な踊りだというので、参加を申し出た。ちなみに普段なら絶対に行かない。これは仕事なのだ。
ライブとかでよくある、曲が始まる前に軽く振りを教えてくれる時間があるのかと思ってたら、何の前触れもなく始まりかなりビビる。「え、みなさんお馴染みのあれ」みたいな踊りなの? 全然戸惑う。手拍子だけならともかく、よく見たらステップもある。ぎこちないロボットダンスみたいになりながらも、見よう見まねで踊る。
とはいえ、簡単な踊りですと言っていただけあり、中盤からは踊りの感覚をつかめてきた。写真のなかの自分が誰よりも得意げに踊っているのがちょっとうざい。「歩いてるときいつもすかしてるよね」ってよく言われるのはこういうところだと思う。
※今回は取材のため特別に許可をとって撮影をしていますが、撮影は禁止です。
イオマンテの火まつり
開館期間
春・夏バージョン 4月21日~8月31日
秋バージョン 9月1日~11月30日
公演休演日 10月9日
上映時間帯に関してはこちら
https://www.akanainu.jp/iomante
まとめ
イオマンテが終わり外に出る。訪れたのが平日ということもあるのだと思うが、昼間と打って変わって人があふれるアイヌコタン。
時間は21時半。みんなそろそろホテルに戻るはず。私たちもこれからホテルに戻り温泉に浸かろうと思う。一足先に歩く彼ら・彼女らの後ろ姿を眺めながら、今日1日を振り返ってみると、とても暖かい空間だったなと思った。
アイヌコタンで出会った人たちはみなサービス精神旺盛で懐の深い人たちだった。
自然と共存し、あらゆるものに神が宿ると考え、祈り感謝するアイヌの信仰がそうさせるのだろうか、とふと考えてしまう。
個人的には昼の景色より夜の景色が好きだ。阿寒湖アイヌコタンに来るときはぜひ夜まで堪能することをおすすめする。この景色や空気感は生身で体感してこそだと強く思った。
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