次のソウル旅で行きたい注目エリア、望遠洞&解放村へ
ソウルはトレンドエリアが次々と移り変わる都市。鍾路(チョンノ)江南(カンナム)、弘大(ホンデ)、梨泰院(イテウォン)などの代表的な繁華街は今日も変わらず大賑わいですが、そこから少し外れた周辺の街にこだわりのカフェやショップができて、そちらがホットなエリアになっていくという現象が市内各地で起きています。そんななかから、気になるふたつの街、望遠洞(マンウォンドン)と解放村(ヘバンチョン)をご紹介します。
望遠洞はどんな街?
望遠洞があるのは、ソウル西部の麻浦区(マポグ)。 弘大に隣接するエリアで、地下鉄弘大前(ホンデアプ)から2駅で着きます。望遠洞はもともと望遠市場(マンウォンシジャン)という地元密着型の市場を中心に、戸建てや3~5階の中層アパートが立ち並ぶのどかな住宅街でソウルによくあるローカルタウンのひとつといった風情でした。そんな望遠洞が注目されるきっかけとなったのは3年ほど前に「水曜美食会」という人気グルメ番組で望遠市場の店が紹介されたこと。また2017年に望遠市場そばにピンクの自販機がインスタ映えすると話題をさらったカフェZAPANGIができたことで、外国人観光客も訪れるようになったといわれています。現在は、下町感あふれる望遠市場と、周辺にぽつぽつとでき始めたセンスのよいカフェやショップとが共存するエリアとなっています。
ではさっそく望遠洞を歩いてみましょう。最寄りは、地下鉄6号線・望遠駅。2番出口を出てすぐ右手にある道を大通りとは反対の方向に進みます。道の両側には個人経営のスーパーや八百屋、パーマ屋というほうが似合う美容室などが並びます。この道を100mほど進むと右手に望遠市場の入り口が見えてきます。
B級グルメの食べ歩きを楽しみたい望遠市場
望遠市場は、生鮮食品はじめ食堂、伝統菓子店、洋品店、金物屋…と、生活に必要なものが揃った住民のための市場。アーケードのついた一本道が2ブロックほど続くシンプルな構造の市場はかなり整備されていて、道幅も広く、清潔感があります。
市場の道を歩いていると、日々の買い物に来た地元の人に混じって、デート中のカップルの姿もけっこう見かけます。
望遠市場は、食べ歩きにぴったりの手軽な市場フードが充実しているのが特徴。このことが若者も多く訪れるようになった理由だと思われます。人気店は、市場の中ほどにある、テレビ番組で紹介された「キュスタッカンジョン」。骨なしのから揚げを醤油系のソースで和えた「タッカンジョン」の専門店です。この店はソースの種類が豊富で、甘め、辛め、チーズマスタードなどから一度に2種類が選べます。
いちばん小さいサイズは紙コップ入りで3000ウォン(約280円)。食べ歩きにちょうどよいボリュームです。タッカンジョンはたいてい餅を揚げたものもいっしょに入れてくれるのですが、チキンだけより食感にアクセントがついていいんですよね。
キュスタッカンジョン
住所:ソウル特別市 麻浦区 望遠路8キル 27
時間:10:00~21:30
定休日:秋夕、旧正月期間
URL:http://www.xn--0z2bd320ew8dq4am3g.kr/index.php
もうひとつの有名店は、いつでも行列が続いているコロッケの専門店「マンウォンスジェコロッケ」です。入ってきた入口とは反対側の入り口脇にあるお店。コロッケといっても日本のそれではなく、韓国でコロッケというと、具をパン生地で包んだピロシキ的なものを指します。
野菜、カレー味のさつまいもなどのコロッケのほか、砂糖をまぶした昔風の揚げドーナッツも数種類。もち米入りの生地で作った「チャプサルドーナツ」はもちもちの食感があとを引きます。回転が速いので、作り立てを食べられる確率が高いのもうれしい。
このお店の最大の魅力は価格。コロッケがひとつ500ウォン(約47円)、ドーナツはなんと3つで1000ウォン(約93円)ですよ。物価高騰が続く韓国にあって、長らくお値段据え置きの姿勢が素晴らしいです。
マンウォンスジェコロッケ
住所:ソウル特別市 麻浦区 望遠路80
時間:9:30-21:00
定休日:日曜
何種類ものキムチを売るおかず店にも目を奪われます。旅行客が自国に持ち帰りたいという場合は、頼めばラップでぐるぐる巻きにしてくれます。リピーターの方はプラスチック製容器やラップフィルムを持参して、ホテルでさらに厳重に保護して持ち帰っているとか。
大型スーパーやネットショッピングに押され、こうした地元密着型の市場が市内から年々姿を消しているなか、望遠市場は活気にあふれていてこれぞ韓国という賑わいを感じられます。
ピンクの自販機カフェZAPANGI
望遠駅からの道の望遠市場の入り口を過ぎたあたりから、小さなショップやカフェが増えてきます。望遠洞の知名度を上げたZAPANGIは、望遠市場の斜め前。ピンクの自販機がキュートでインスタ映えすると話題になり、ここで記念撮影する人多数です。カフェの入り口はどこ? と思われるかもしれませんが、このピンクの自販機自体が扉なんです。ちなみにソウルではここ2年ほど、このような入り口はどこ? 物件が増えているように思います。冷蔵庫を開けるとカフェだったり、大きなショーウィンドウがあると思ったら、それが回転扉だったり。やはり映えが重要視される昨今、こういう仕掛けも必要なんでしょうか。
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さてこのZAPANGI、大人にはちょっと恥ずかしくなるくらいのピンクっぷりなのですが、夜になると雰囲気が出てきて落ち着いた感じになるので、夜お茶ならアリです。
ZAPANGI
住所:ソウル特別市 麻浦区 ワールドカップ路13キル 79
時間:10:00~23:00
定休日:なし
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/zapangi_official/
デザイン文具が手に入る「ZERO SPACE」
ZAPANGIを過ぎて、道なりにさらに1ブロック進んだところに「ZERO SPACE」があります。ソウルやNYの路線図をモティーフにしたシリーズ、家族をテーマにしたイラストシリーズなどが有名なZERO PER ZEROというデザイナーデュオのスタジオ兼ショップ。地元の韓国女子がこぞって訪れる人気のお店です。
ZERO PER ZEROのイラストは優しい雰囲気とメリハリの効いた色使いが特徴で、イラストを活かしたマスキングテープやノート、携帯ケースなど、どれもセンスのよいものばかりです。韓国のみならず日本を始め海外でも人気のある彼らは、本の挿絵やコラボグッズなども多数手がけており、市内の雑貨ショップでもZERO PER ZEROグッズを取り扱うお店がありますが、オリジナルグッズが揃う直営店はここだけ。ぜひ一度チェックしてみてください。
ZERO SPACE
住所:ソウル特別市 麻浦区 喜雨亭路16キル32 1F
営業時間:平日11:000~19:30、土曜13:00~20:00、日曜13:00~19:00
定休日:1月1日、旧正月、秋夕期間
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/zeroperzero/
ショップが点在するのは、望遠駅からの道なりにZAPANGIからZERO SPACEまでの2ブロックほどの間。さらにその道と交差する通りにもお店があります。ちょっとレトロな雰囲気のカフェやカウンターだけの小さなパン屋などが住宅の合間に佇んでいます。
雑貨ショップ、古着屋なども。新しいショップもどんどんオープンしているので、散歩しながら気になるお店をチェックしてみてはいかがでしょうか?
最終日でも行きやすいアクセスのよさも魅力
望遠洞のある西側エリアは市内でも一番空港寄りとなり、仁川、金浦両空港へのアクセスがよいのも旅行客にはポイントが高いです。両空港と市内を結ぶ空港鉄道のデジタルメディアシティ駅で地下鉄6号線に乗り換えると望遠駅まで2駅。望遠洞のエリア自体も1時間もあればぐるっと回れるので、気軽に寄りやすいエリアです。
解放村はこんな街
続いては、ちょっとマニアックな解放村のご紹介です。市内のほぼ中央にある、ソウルのシンボル、Nソウルタワーが立つ南山(ナムサン)の南の麓一帯のエリアがこう呼ばれます。米軍駐留地や大使館街があり外国人の多い繁華街として知られる梨泰院に隣接するエリア。解放村という地名からも想像できるかもしれませんが、この街の来し方はソウルの歴史と深く結びついています。
1945年に解放されるまで、南山一帯は日本軍の軍用地でした。日本軍が撤退した後は米軍の軍用地となりますが、すぐに朝鮮戦争が勃発。続く戦争で多くの人が家を失い、避難民となって南下しながら逃げてきました。その際にこのあたりの山肌に沿った条件の悪い土地にバラックを建てて暮らすようになったのです。南北が分断された結果、元は北にいた避難民たちは戻ることができなくなり、ここに定住。それがこの街の始まりです。さらに時代は下り、梨泰院に近く地価も安いことから、外国人が多く住むようになります。
そんな歴史を持つ解放村エリア、入り組んだ路地になっているせいか、あるいは米軍基地が隣接しているせいか、長らく大規模な開発から取り残されたエアポケットのような場所でした。それゆえノスタルジックな雰囲気と異国情緒とが入り混じった独特の街の風景がそのまま残ったのかもしれません。
寂れた市場にとっておきのカフェがある
昔ながらの解放村の雰囲気を色濃く残すのが「新興市場」です。避難民がここから始めようという意味を込めて名付けた市場は、この街の人々の生活を支えてきました。が、時は流れ完全なるシャッター街となっていた新興市場。昼間でも薄暗く、もはやこれは映画のセットの廃墟かというほどの寂れっぷりでした。
そこへ2,3年前から年市場内の空き店舗を利用して、若い人たちがショップやギャラリーをオープン。新たな解放村を作り始めています。中心的な存在がカフェ「ORANG ORANG」。ゴリラのネオンサインが目印。3人のバリスタ仲間が共同で始めたカフェで、廃屋となっていた建物を自分たちでいちから作業してリノベーションしていったそうです。
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コンクリ―トの壁や階段など、元の建物の造りをそのまま活かしていて、自然なヴィンテージ感が出ています。すごくおしゃれなんですが、市場の雰囲気をうまく残しているので、妙に落ち着く空間になっているのがさすが。
メニューは自家焙煎の豆から落とすドリップコーヒー 5000ウォン(約470円)がおすすめ。時間がかかるので、席で待ちましょう。デザートにはティラミス6000ウォン(約560円)もぜひ。
このカフェは屋上もおすすめ。正面にNソウルタワーが見えるなかなかのロケーションなんです。ちょっと古ぼけた解放村の街並みの向こうにライトアップされたタワーが浮かび上がる夜景も味わい深いです。
ORANG ORANG
住所:ソウル特別市龍山区素月路20キル26-14
営業時間:11:00~22:00
定休日:なし
公式インスタグラム:http://www.instagram.com/orangorangco/
丘の上に佇む小さな書店
新興市場のすぐそばに小さな小さな書店があります。2015年にオープンした「コヨソサ」は、小説、詩を中心に扱う文学専門の書店。ソウルには数多くの独立系書店が誕生していますが、文学が専門というのは珍しい存在です。
韓国では社会現象になった『82年生まれ、キム・ジヨン』という小説が昨年日本でも発売され、新しいフェミニズム文学として大いに話題になりました。この作品はじめ、ここ2年ほど日本では韓国文学の翻訳が相次いでなされており、日本でも読者を獲得しています。人気の理由はいろいろありそうですが、個人の物語を描きながらも、南北の分断、軍事政権、ベトナム戦争、海外移民、経済危機、セウォル号といった歴史や社会的なできごととどこかリンクしている重層的な作品が多いことも韓国の小説の魅力のひとつではないかと個人的には思っています。ともあれ、韓国の小説に興味を持たれた方、あるいは雰囲気のよい書店が好きだという方はぜひ。
店内はかなり狭いですが、店主のセレクトが光る小説や詩がバランスよく並べられています。当然すべて韓国語なので、読み通すことは難しいかもしれませんが、韓国の文学本はセンスあるブックデザインのものが多く、気になる表紙の本を手に入れてビジュアルを楽しむのも手です(私はよく海外で読めない本をジャケ買いします)。また韓国では日本の小説も大変人気があるので、よく知っているあの作家の韓国語版も色々置いてありますよ。
解放村に店を構えたのは、賃料の安さもさることながら、人が生活していることが感じられるエリアだったからだと店主は言います。実際、通りがかりの近所の人が明かりのついている書店が気になって来訪、その後常連になんてこともあったそう。地域に溶け込んでいる様子がわかりますね。
店名にある「コヨ」とは韓国語で静寂という意味。その名の通り、静かな住宅街に文学好きが集う隠れ家のような書店。私の住む町にもこんな書店があったら、と思わせるお店です。
コヨソサ
住所:ソウル特別市龍山区新興路15キル18-4
営業時間:月曜~木曜14:00~21:00、金曜~日曜14:00~19:30
定休日: 隔週火曜
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/goyo_bookshop/
眺望ばつぐんのルーフトップで本格派ハンバーガーを
坂だらけの街のいいところ、それは高いところからの眺望を楽しめること。解放村でも高い地点にある「The100 Food Truck」は、先ほどご紹介したカフェORANG ORANGの店主もいちおしの手作りハンバーガーの店。ハンバーガーの味もさることながら、この店の自慢はなんといってもルーフトップからのこの眺望。ソウルの街を一望できます。
国内産韓牛を100%使用したパテを挟んだthe 100 Burgerは、10800ウォン(約1010円)。サイズ的にはそれほど大きくないのですが、肉汁をたっぷり含んだパテが濃厚で、ひとつ食べると苦しいくらいお腹いっぱいに。爽快なシティビューを眺めながら、ビールも楽しんで。
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The100 Food Truck
住所:ソウル特別市龍山区新興路20キル45-1
営業時間:11:30~22:30(L.O.21:00)
定休日:なし
解放村への行き方
解放村は山肌に沿って扇状に広がっており、どの方向からアクセスするかで行き方が変わるので、ちょっと難易度が高いといえます。ご紹介したお店の周辺に行く目印は、解放村の一番高い部分にある「解放村五差路(ヘバンチョンオゴリ)」という交差点。複数路線のバス停があり、タクシーの運転手も一発でわかる地点なので、ここを基点にすると一帯を見て回りやすいでしょう。梨泰院駅、逆側のソウル駅からもいずれも車で約10分と意外にも近いです。
ソウルの新旧を目撃しよう
ホットなエリアが次々生まれる理由はシンプル、賃貸料がどんどん値上がりするからです。たとえば望遠洞は、繁華街である弘大エリアに隣接しています。国内屈指の美術大学の学生街から発展したエリアで、美大のおひざ元らしく、アーティストが多く住み、個性的なカフェやショップが多く集まる街として知られていました。多くの人が集まるにつれ、地価も高騰。個人経営のバーやカフェ、ショップは賃料を払えなくなって街を去るようになりました。そして弘大を出て行った人たちや、新たにお店を始めたいけれど資金の少ない人たちが、弘大周辺でまだ開発が進んでいない賃料の安い住宅街に店を構えます。するとそこに昔ながらのローカルな街並みの中に個性的な店が点在する独特の雰囲気が醸成され、注目が集まるようになるというわけです。今回ご紹介した望遠洞や解放村はそうした流れで生まれたエリア。大手資本が一斉開発したエリアとは決定的に違う、ソウルの新旧を同時に目撃できる場所という点が最大の魅力です。
ローカルっぽい雰囲気と若者のインディーズ魂を同時に感じられるソウルの次世代エリア。ぜひ次のソウル旅では、繁華街からちょっとはずれたエリアに注目して探検してみてはいかがでしょうか?
※文中の金額は1000ウォン=95円で計算。
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